小椋執筆部分(幕末期における琵琶湖周辺の植生景観 ―「琵琶湖真景図」と「琵琶湖眺望真景図」を主な資料として―)の概要
江戸時代以前の写真もない時代の里山の景観を知る上で,絵図類の中には貴重な資料(史料)となるものがある。そのうち真景図などと称され,実際の景観の詳細な写生をもとに描かれたと見られるものには,とくに良い資料となるものがある。ただ,真景図などと呼ばれていても,その写実度はさまざまである。
それぞれの図が,過去の植生景観をどの程度正確に描いているかを確認する方法がいくつかある。そのうち,同時代に同じ場所を写実的描法で独自に描いた比較可能な複数の図があれば,それらの図をもとに考察するのが非常に良い方法であるが,そのような図を見つけることは容易ではない。しかし,幕末頃の琵琶湖周辺を描いた「琵琶湖真景図」(滋賀県立琵琶湖博物館蔵)と「琵琶湖眺望真景図」(大津市歴史博物館蔵)は,そうした比較可能なまれな図巻である。
その2つの図を詳しく比較などして検討することにより,幕末の頃,琵琶湖周辺の丘陵・山地には,ほとんど植生がないところや低い植生のところが多かったこと,一方,低地では比較的高い木々や小さな林,また竹林はよく見られる光景であったことなどがわかる。