学会発表

氏名 小椋 純一
氏名(カナ) オグラ ジュンイチ
氏名(英語) OGURA Junichi

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発表タイトル

日本の潜在自然植生におけるスギの位置づけについて

単独・共同の別

単独

学会・大会名名称

日本植生史学会

発表場所

オンライン

発表年月日

202010

国内外の区分

国内

概要

スギは,花粉分析や埋没林についての多くの調査研究から,最終氷期よりもはるか前から日本列島に広く存在し,多くの地域で主要な樹種であった時代が長くあったことが明らかになっている。弥生時代頃以降,人の利用が増えたことにより減少もするが,その一方で人が植栽することにより大きく増えてきた樹種である。現在では植林されたものを中心に日本国内に広く見ることができるが,その天然林も少なくない。しかし,現在,スギは植えられているものが多いことに加え,天然更新が容易でないこともあり,主に社寺林を対象とした潜在自然植生の調査では,ヒノキなどとともに植えられたものとされ,潜在自然植生の樹種とはされていない。
 潜在自然植生を主に社寺林の調査から捉えようとしたのは,そこは古くから人手が加えられることが少なく,潜在自然植生の植生種が残されていると考えられたことがある。しかし,ここ十数年ほどの発表者らの研究(小椋 2012 など)から,その前提の考えは誤っており,潜在自然植生を主に社寺林の調査から捉えようとしたことには問題があったと考えられる。
 一方,スギが潜在自然植生の樹種ではないと考えられてきた別の理由として,スギが天然更新しにくいということがあり,そうした考えは明治期からあったが,京都市郊外や岡山県北部の中国山地などを少し調べてみても,スギが天然更新しているところをすぐに見つけることができる。
 それらの観察や,今日までのスギの天然更新に関する研究成果などから,スギは日本の暖温帯地域も含む多くの地域において条件【光(鬱閉した森林ではだめ),水分,基質(倒木,花崗岩など),・・・ 】次第で種子がよく発芽し,成長してゆく樹種であると考えられる。
 そして,日本各地の例をさらに確認する必要があるとはいえ,スギはたいへん長寿で陰樹性も持ち合わせた樹種であることなどから,青森県以南,屋久島までの広域において潜在自然植生の重要な樹種として位置づけられるべきものと考えられる。また,アスナロやコウヤマキなど,他のいくつかの針葉樹についても,潜在自然植生においてスギと類似した位置づけができる可能性がある。