本書は奈良県立大学の研究者が中心となり、先端的都市文化について、それぞれの専門的立場から論じた書籍である。山田は第7章「都市とセクシュアル・マイノリティ」(91頁~102頁)を執筆した。共著者の多くは都市文化研究者であり、地域社会、地域コミュニティなどに深く関与しながら研究を続けてきた人たちである。
本稿では都市におけるセクシュアル・マイノリティの動態や、そこでの文化的ありようについて、セクシュアル・マイノリティの基本的理解を確認しながら概説した。欧米では、セクシュアル・マイノリティの権利運動はアーティストとの協働によってその興隆をみた。現在、美術研究、芸術学研究の諸領域では、このようなアートと社会との関係に対する検討が進められており、本章ではそれらの研究業績を参照しつつ、セクシュアル・マイノリティの権利運動の現状と課題を検討した。
執筆にあたっては、山田がこれまでに経験したNPO、NGOでの活動を通して、都市空間での一人の市民としてのセクシュアル・マイノリティ当事者が、そこでどのように振る舞い、どのように自らのセクシュアル・オリエンテーションやジェンダー・アイデンティティを自認しうるのかを検討した。新宿二丁目や大阪堂山町のようなセクシュアル・マイノリティが利用する商業施設の集積地、いわゆるゲイタウンの成立には、近代以降、日本社会での地域社会、農村社会における近代家族の覇権が影響している。特に1970年代以降、単身者(その理由はさまざまだが)の都市流入の中に、明らかにセクシュアル・マイノリティ当事者の存在が目に見えるようになり、その存在が、都市文化としてのセクシュアル・マイノリティ・カルチャーの成立につながってゆく。本書ではその状況を、欧米の事例などにも言及しつつ考察した。都市空間はセクシュアル・マイノリティにとって人間関係の紐帯を維持し、広げてゆくための基盤的なインフラであり、基盤であった。それらの状況は、現在、スマートフォンの普及、SNSの普及、国内各地でのいわゆる「同性パートナシップ制度」制定の流れなどを受け、変化しつつある。