本論の核心的なアイデアは、地域や空間が、身体を中心とした言説の編成により常に再編成されるというものである。換言すれば社会や地域、空間は全体としてあらかじめあるものではなく、ひとつの身体としての個人のありようによって、いかようにも構成し直されるというものである。そのプロセスを分析し、あるいはその構造を知り、そこに介入しようとするとき、言説分析・テキスト分析は核心的な方法論となりうる。この理論構造は、地域や空間の構造を知り、それを再編成・デザインしようと試みるときに出発点となり得るものである。本論で検討されているソーシャルデザイン、地域や空間のデザインの理論と実践はHIV/エイズという健康課題がそれを要請し、社会的に立ち現れるものである。これらの課題は当分その解決の糸口が見えないように思われる。だが個人が一人の市民として社会の中に在り、表現することの意味の大きさを考えるとき、そして、まさにHIV/エイズという課題の中心的なテーマである「規範」や「排除」「差別」という事柄のその源にそれぞれの市民のありようそのものが関わっているということを考えるとき、この困難な課題に対して今後社会の中で一人ひとりの市民がなしうる様々なアプローチの可能性が見えてくると考えられる。