平安期書写の『和漢朗詠集』は華麗な装飾料紙を用い、巻子本に仕立てられたものが多い。書写に際しても、漢詩を楷書や行書で書き、和歌は万葉仮名や宣命書風に書くなど変化をつけている。平安時代のものは調度品として写されたものであり、料紙や装丁、表記にもこだわるのだが、鎌倉時代以降に書写されたものでも、他の作品に比べて巻子本が多く、和歌の表記にも工夫が見られる。平安写本との違いは素紙が用いられることが多いという点で、調度品とは言えない。なぜ巻子本に仕立て、表記にこだわったのか、書写のありようから『和漢朗詠集』がどのように享受されてきたのかを考察した。