本論文は、筆者が代表をつとめた「科学研究費補助金、基盤研究(A)2015~2019年」の研究成果報告書のために書かれたものである。
本報告書は、美学、美術史、修復家、博物館学、キュレーションなどを専門とする研究分担者20人とともに、5年にわたっておこなわれてきた調査研究の成果報告として、内外の研究者22名による論考を収録している。
その巻頭論文となるのが筆者のもので、ここで5年間の研究を総括しつつ、筆者は、アントロポセンの状況下、あえて「遺さないこと」、「忘れること」、「真正性authennticityの事後性」という特異な観点から、現代美術の保存と修復について再考した。