2000年代以降,ICTの発展により多くの産業においてデジタル化が進んでいる。本稿が取り上げるメディア・コンテンツ業界についても,従来のマスメディア媒体(新聞,出版,放送,ラジオ)のコンテンツをデジタルで届ける音楽配信や動画配信ニュース,配信ビジネスといった新しいサービスが続々誕生し,顧客接点としての主流になっている。
バーチャル・キャラクターが主体となるコンテンツで,2016年末に新たなジャンルとして登場したのが,VTuberである。本稿では,『ナゴヤVTuber展inパルコ』(2021年)を中心に,2017年よりVTuber事業を手がけてきた中京テレビ放送株式会社に取材し,インターネットを解したコンテンツ特有の顧客とコンテンツ発信者との関係性を検討する。
本研究の発見事項は3点であった。1点目は,VTuberの多くはアニメのようなフォルムをしているため,アニメと混同しがちであるがリアルな姿ではなくとも配信者の人間性が重要であることが分かった。
2点目は,距離の近さであった。VTuberはリアルタイム性,コミュニケーションの取りやすさが,テレビや劇場などで見るアイドルよりも身近に感じられることが分かる。
3点目は,表現の自由さであった。配信者が生身の身体でないことによる物理的制限に左右されない表現手法やバーチャル空間ゆえの新しい表現が好まれていた。
本研究の発見事項を関係性マーケティングの観点から述べると,インターネット上の配信者とファンとの関係性においては,同一の「空間」よりも,同一の「時間」の共有が重要となることが明らかとなった。「時間」を共有し,配信者の人柄や夢に触れるうちに,また配信者とのインタラクションによって配信者の存在を身近に感じるようになってゆくうちに,消費者との間に感情的な強い絆が結ばれるものと考えられる。