2011年に起きた東日本大震災から11年。東北沿岸部の被災地はこの間に、巨大な防潮堤をはじめ、嵩上げや高台の造成を行い、「あたらしいまち」をつくり上げてきた。同時に被災し、一斉に行われた大規模復興工事は、一見すると似たようなまちなみを各地に生み出す。しかし、ひとつ一つに目を向ければ、土地土地で営まれてきた人の暮らしの痕跡があり、それらは微かな違いとして風景に現れている。
アーティストで詩人の瀬尾夏美は、東日本大震災以降、岩手県陸前高田市をはじめ、近年増え続ける自然災害の被災地を訪ね、土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら絵を描き文章を書いてる。2022年、彼女はこれまで飛び石的に訪れていた被災各地を歩き直した軌跡を一冊の本にまとめることを計画し、写真家のトヤマタクロウと協働し、2022年秋から2023年春にかけて岩手県北部から茨城県中部までを点と点を結ぶように辿って各地の今の風景を収めた。
数回に分けて行われた撮影の道程は、700キロメートルに及ぶ。対象から一定の距離をとる旅人の視点で撮られたトヤマの写真に、震災後11年をかけて瀬尾が聞いてきた土地の声が編みこまれた本書には、現在と過去、遠さと近さが複雑に交差していく幾重もの層が表れている。