学術論文・紀要

氏名 岩本 真一
氏名(カナ) イワモト シンイチ
氏名(英語) IWAMOTO Shinichi

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論文名

中村光夫の近代主義―「社会変革」としての文芸批評―(その3)

単著・共著の別

単著

発行所、発表雑誌(及び巻・号数)などの名称

『京都精華大学紀要』第33号

該当頁

pp.322-340

発行年月

2007年10月

編者・著者名

 

概要

小林秀雄の正統な継承者として位置づけられる中村光夫の思想形成について論じたものである。 中村は、イエ意識の強い、極めて「日本的」な家庭に育った。それ故、かれはその外に出ることを強烈に願うことになる。外交官として「逃亡」をたくらむ中村の方向を変えたのは小林秀雄であった。当時、プロレタリア文学にどっぷりと浸かっていた彼は、小林の影響から、文学という場で現実と格闘する立場を理解する。 ただ、それ以上に中村を動かしたのは、当時のプロレタリア文学の中身であった。中村は、その出自ゆえに強烈な社会変革意識をもっていたため、プロレタリア文学の現状に我慢ならなかった。これで何かが変わるとは思えなかったのである。 このふたつの衝撃から、中村は批評家として歩み始める。その最初に取り上げたのが、二葉亭四迷とフローベールであった。二葉亭を考えることは日本近代を考えることであり、フローベールを考察することは西欧近代について思いをはせることであった。中村は自らの出発点として、それぞれの「近代」の出発点を取り上げることにより、その社会的背景と構造を掬い上げようとしたのである。 つまり、中村の文芸批評は、単に文学という狭い領域に閉じこもるものではなく、常に社会と切り結ぶ、「社会変革」としての文芸批評なのである。中村を、「ヨーロッパの尺度で日本近代を批判する批評家」と評する言説が、いかに皮相的な見解にすぎないかがわかるであろう。

査読の有無