説話における僧の語られ方から作品理解に迫った論集。
本論では『今昔物語集』震旦部における仏教渡来譚を中心に分析し、震旦の皇帝が仏教に対して受動的であり、仏生国である天竺や本朝に対して消極的な態度として描かれていることを指摘した。そのうえで、仏教修行者の呼称を天竺部、本朝部とも比較して論じ、神聖視されるべき「聖」も、仏法に敵対する「外道」も登場しないことを確認した。「震旦」では「道士」が、異教を信仰する修行者として「外道」と同じ位置にあると思われるが、「仙人」は「仏」と近い意味でも用いられている。このように「震旦」は、相対的に天竺、本朝に比べて劣位に置かれていると結論し、『今昔物語集』の三国観に新たな知見を加えた。