「異界」というキーワードは、1980年代から定着しました。具体的には、死者のいる「黄泉の国」や「地獄」、浦島太郎の訪れた「竜宮城」といった世界と、現世とを区別するための用語です。近年「異世界転生」ものがブームのようですが、「異界」と聞いた時には、どんなイメージをもつでしょうか。中世ヨーロッパ風のファンタジーの世界? 妖怪変化の世界? あるいはあの世? 古代中世において「異界」という言葉はありませんでしたが、人々はさまざまな「異界」の様子を想像してきました。「異」や「他」という基準は、誰の、どんな判断で用いられるのでしょうか。本講義では、『今昔物語集』や『十訓抄』などの中世説話から、人が何をもって「異」「他」を区別してきたかを考えます。