吉川は、2017年の個展「elevation」以降、様々なコミッションワークのかたわら、一冊の本を除いては発表に重きをおかず、イメージを観察・採取し、アーカイブを構築し続けてきた。まずデッサンやグラフィックデザインを学び、その後に写真を撮り始めた吉川は「写真を定着させる面の質感がどうあるべきか」に細心の注意を払う。本展示の作品は、彼がコロナ禍以降3年にわたって目の前の光景を観察し採取してきたイメージのアーカイブから丹念に取捨選択された。
その写真群は、写し取られた内容をもって何かを伝えるものではなく、ある面に定着された際に今日性や継続性を孕むもの、という視点で選ばれている。そしてその定着された面を展示することで伝達されるものは何なのかということを彼は試みた。その行為は、写真が離散的なデジタルデータとして扱われるようになり、いくらでも改変できる可能性を持ち始め、その連なりがデータベースとして回遊するものとなった結果、写真固有とされていた「再現前性」が疑わしいものとなってきつつある今日において、伝統の方法だけに固執することなく、かといってフローのなかに消えゆくものでもなく、写真が現在のリアリティをもった存在としてどうありうるか、ということを丹念にさぐる行為のように思われる。
カタログは、「ある面に適切に定着された際に現代性や継続性を孕むもの」をテーマとして選ばれ展示された写真群のアーカイブとして制作された。掲載画像は「全体と細部」という規則性に則って撮り下ろされ、本という構造に再構成されている。
展示:2023年8月18日-27日(STUDIO STAFF ONLY)
企画・運営・図録出版・デザイン:米山菜津子
出版:YYY PRESS
協力:八紘美術