近年、美術館やデザイン教育の現場で、より良い未来を空想する、或いは望ましい未来のシナリオを書くといった視点から構想された「クリティカル・デザイン」が注目されている。「クリティカル・デザイン」とは、現状を肯定することに批判的である考え方であり、製品が日常生活で果たす役割についての固定観念、常識に疑問を投げかける見方を指す。初期の「クリティカル・デザイン」は、科学技術を批判的に取り上げたインスタレーションの作品として提示された。本論ではアンソニー・ダン、マット・マルパス、水野大二郎、本田敬等の論考を検証し、「クリティカル・デザイン」の理論的関与の大半がアートの言説によっており、デザイン用語としての批評や、現実世界とは異なる未来を描こうとする理想にまでは至っていないと思われる。